ブランドCXの潮流、なぜ「Brand Future Hat」が支持されるのか?

岸中:朝岡先生、本日はよろしくお願いします。

ブランドの概念だけでなく、社会実装を可能にする”独自のフレームワーク”を使い、”合計24時間のワークショップ”で完成する、GINZA CREATIVOのブランド構築フレーム「Brand Future Hat」をローンチして10ヵ月。衛生業界、食品業界、美容業界と様々な業種のブランディング実績を上げることができました。

これだけのニーズがあるとは正直、想像していませんでした。朝岡先生は「Brand Future Hat」が受けている理由をどう考えていらっしゃいますか?

ブランディングが求められる2つの理由。


朝岡:「Brand Future Hat」がブランド価値再定義の戦略的な取り組みとして、クライアント企業の皆様に受け入れられている理由は大きくふたつあると思います。最初のひとつは企業の「なりわい(業態やビジネスモデル)」の大変革です。デジタル化が急速に進展し、「モノの時代からコトの時代へ」と言われるようになって久しいですが、たとえば、トヨタは「自動車製造業」から「モビリティサービス」の会社へ自らの「なりわい」を転換しようとして、モビリティの実証実験都市「ウーブンシティ」建設など様々な取り組みを行っています。

企業はモノを売り切って終わりではなく、モノを売ることはお客さまと繋がる最初のきっかけに過ぎません。モノを起点として体験(CX)の形で魅力的なサービスを提供し続けることで、お客さまとの間に確固たるロイヤリティを構築していくという形に変化してきています。重要なのはここからです。こういった変化が企業の内部で起きることで、企業の側にもある種の課題意識が芽生えてくると推察されます。ブランディングを「お客さまから選ばれ続けるための、信頼や期待値づくり」ための活動と考えると、自社のブランドが「お客さまにとって、どういう価値を提供する、どういう存在か」という大前提が変わってしまうと、自らのアイデンティティ(ブランドらしさ)を再定義しないと多くの経営者は心理的に非常に不安定な状態に陥ってしまうのではないでしょうか。自分探し、自分づくりが必要になってきます。

ポール・ゴーギャンの代表作に「我々はどこから来たのか?我々は何者か?我々はどこへ行くのか?」と絵があります。「なりわい」の変革をきっかけに企業も過去のブランドDNAを棚卸ししつつ、「どこから来て、どこへ行くのか?」を再定義しないと、不安で前へ進めない状況に迫られるのです。ブランド価値体系の中では「どこから来て」という部分は、「理念」(社会的な存在理由=パーパスや企業が大切にする価値観)であり、「どこへ行くのか?」は近未来の企業のありたい姿に相当する「ビジョン」ということになるかと思います。

岸中:「なりわい(業態やビジネスモデル)」の変革をきっかけにして、企業が自社のブランドの再定義の必要に迫られている、ということはよくわかりました。ふたつ目の理由はどういうことでしょうか?

朝岡:ひとつ目がブランドCXとすると、ふたつ目の理由は従業員の「働きがい」、つまりEX(Employee Experience)に対する効用ということになると思います。

そもそも従業員がハッピーで「熱量」高く働ける環境でなければ、企業がお客さまに期待や想像を超えたワクワク体験(CX)を提供することは不可能です。

大きな組織では、そもそもサイロ化が起きやすいことに加えて、コロナ禍でリモートワークやオフィスのフリーアドレス化が進んだ結果、「同じプロジェクトを担当しているはずなのに、お隣の部署の◯◯さんとは話をしたことがない」というような奇妙な状況が増えています。このような状況を看過してしまうと「自分はなぜこの会社にいるのか」「自分は誰のために働いているのか」という疑念が従業員一人一人の間で大きくなり、従業員エンゲージメントも低下して行ってしまうでしょう。その点、ブランド構築フレーム「Brand Future Hat」の良いところは、組織横断のワークショップを通じて、従業員同士が知恵を出し合い、暗黙知を形式知化することで、ブランドにとっての新たな価値を社員自身の力で見出すところにあります。「組織や階層の枠組みを超えて話し合うことで、多くの気づきや発見があった」「自分はお客さまフロントにはいないけれど、お客さまの豊かな体験(CX)づくりのために貢献できることが確認できてモチベーションが上がった」というような参加者の声をよく聞きます。

P.F.ドラッカーは『ポスト資本主義社会』(1993年)という著書の中で「明日の組織のモデルは、オーケストラである。250人の団員はそれぞれが専門家である。チューバだけでは演奏できない。演奏するのはオーケストラである。オーケストラは、250人の団員全員が同じ楽譜をもつことによって演奏する」と述べています。ワークショップの取り組みを通じて、社員が自律したプロフェッショナルとして自らの役割を自覚し、オーケストラの団員のように振る舞うことができるようになれば、その企業にとって最強のインターナルブランディングである、と言えると思います。

岸中:確かに、実際に「Brand Future Hat」のワークショップをやってみて、社員の方々が自発的にONE TEAMになっていく様子を目の当たりにすることができました。

同じブランドに関わっていても、例えば研究の方と営業の方、コミュニケーションをとる機会があまりない部署の方が盛り上がったり、ブランドのことを真剣に考え続けることによって自分ゴト化、みんなが仕事としてではなく、本心から自分が関わるブランドが大好きになっていく様子が素敵でした。

2つの大きな理由に加えて、「Brand Future Hat」のフレームワークは自由にカスタマイズでき、ブランドごとの課題にジャストフィットできることも魅力であると思います。BtoBブランディング、若手社員を中心とした未来のビジョンづくり、ペルソナから販促プランまで新ブランドの構築など、様々な課題を解決してきました。

ブランドの本質から紡ぐ魅力的なストーリー。


朝岡:「Brand Future Hat」のフレームワークではブランドにまつわる様々な課題を網羅的に解決することが可能です。しかし、強みはそれだけではありません。

「WHY」→「HOW」→「WHAT」の順番、すなわち、サイモン・シネックが説く『ゴールデンサークル理論』に沿った形で、ロジカルに説得する文脈で見える化させることが大きな強みであると言えます。『ゴールデンサークル理論』とは「優れた企業や人物は「WHAT」や「HOW」ではなく、常に「WHY」から考え行動に移す。 そして周囲の人々はこの「WHY」に惹かれて、物を購入したり、賛同したりする」という考え方です。SNS時代、ブランドについての推奨や評価は、短いストーリーの形で伝わっていきますから、それが再現性の乏しい、支離滅裂な話ではなくて、「WHY」から始まる、人を惹きつける展開になっているかどうかが極めて重要になりますね。

岸中:確かにワークショップを通じて紡ぎ出された成果がバラバラのアウトプットではなく、魅力的なストーリーになっていることは大切ですね。「Brand Future Hat」のフレームワークで解決できる課題は「WHY」→「HOW」→「WHAT」の順番で整理すると具体的にはどのようなものでしょうか?

朝岡:まず「WHY」に相当する部分としてはブランドらしさ、すなわちブランドアイデンティティを構成する要素である「理念」とブランドの近未来のありたい姿である「ビジョン」になります。まず、企業が新たなスタートを切るために「どこから来て、どこへ行くのか?」を再定義することが大切ということですね。「理念」は企業の使命である「ミッション」、社会的な存在理由を明確にする「パーパス」、企業が大切にする「価値観」(バリュー)などから構成されます。「ビジョン」は企業を取り巻く事業環境が大きく変わっていく中で、企業が今後「どういうお客さまに対して、どういう価値を提供する、どういう存在になるか」ということを簡潔に表したものです

「ビジョン」を決定するためには、企業がターゲットした市場の近未来のシナリオと、自らのブランドの履歴や強みを勘案してどの部分を我が物とするかという企業の意思の掛け算で決まっていきます。次の「HOW」は企業の成長戦略に関することになります。「ビジョン」と「理念」の差分が企業ブランドにとってのマーケティング課題ということですので、「ビジョン」からバックキャスト(逆算)して「理念」を見た時に、「KSF」(Key Success Factor:好ましい成功要因)は何か、それを達成するための「KPI」(Key Performance Indicator:重要となる業績評価指標)は何かを考えることになります。穿った言い方かもしれませんが、「戦略とは追い求めるKPIを決めることだ」と言い切ることができると思います。

現在では、差別化されたサービスはプラットフォーム型のビジネスになってきており、そうなると企業が1社単独でこれを実現することは不可能で、異業種のプレイヤーとの「共創」が前提となることは言うまでもありませんね。最後の「WHAT」は戦略を「絵に描いた餅」で終わらせないために、具体的な事業アイデアをアイディエーションし、実装して行くプロセスになります。

事業アイデアもファーストカットはA4の紙1枚で描けるようなシンプルなモノです。プロトタイプを創り、実際にテストを繰り返し、そこからの学びを迅速(アジャイル)に反映させながら、事業アイデアの精度を上げていく、最初はシンプルなサービスと小さな間口でスタートし、徐々にサービスの内容を充実させ間口も拡大するという「リーンスタートアップ」の形を取ることが望ましいと言えます。これらのプロセスを組織横断のワークショップの形式で、しかも延べ24時間以内で、一気通貫にやってしまうのが「Brand Future Hat」のフレームワークなのです。

これからからの時代に必要なCXデザイン。


岸中:GINNZA CREATIVOは伝統を再解釈し、未来を再発見することにより、新しい価値を創造する「クリエイティブサスティナビリティ」を掲げています。銀座品質を未来へ継承することを目指しています。

朝岡先生が先日行かれた、CES(ラスベガスで開催、世界最大級の最先端テクノロジーのイベント)においてもAI活用の議論が活発にされていたとお聞きしました。

最先端のテクノロジーとブランディングの関係は今後どうなっていくと思われますか?

朝岡:大きな流れとして、マグニフィシェント・セブンと言われるような巨大テック企業(アルファベット、アップル、メタ、アマゾン、マイクロソフト、テスラ、エヌビディア)とその他の伝統的な大企業とは「影響力」の点で格差が開いていくと考えられます。

ブランド戦略の立案プロセスは、先ほど述べたように「ビジョンからバックキャスト」が定石ですが、マグニフィシェント・セブンでは、自分で行なった行為がそのまま自分の状況にも還元されるというケースが十分に想定されるため、「センシング」(企業にとっての事業機会や脅威を察知する能力)や「シージング」(察知した事業機会や脅威に対応してリソースを活⽤する能力)を繰り返しながら、「フォアキャスト発想で短期のトランスフォームを連続させる」ことが勝ち筋となっていく可能性があります。

例えば、今年のCESでジェンスン・ファンCEOが1万2千人もの聴衆を集めて基調講演を行なったNVIDIA(エヌビディア)では、経営管理の指標にKPIを用いず、EIOFs(Early Indicator of Furure Success:将来の成功のための早期指標)と言われる定性的な情報を重用していると言われています。そうなってくると、企業にとっては、信頼や期待づくりといったブランドマネジメントも重要である一方、事業の推進にあたっては、D.J.ティースが提唱する「ダイナミック・ケイパビリティ」(環境の変化に対応するために企業が自己改革を進めていく能力)が不可欠になるということになります。多くの企業にとっては関係のない話かもしれませんが、ブランド研究者の立場としては、注視していきたい興味深い動きですね。

岸中:朝岡先生、本日は今後のヒントとなる貴重な知見をありがとうございました。今後ともGINZA CREATIVOの共創パートナーとして、時代や社会に期待されるより良いブランドづくりをサポートください。

朝岡:こちらこそありがとうございました。

GINZA CREATIVOブランドコンサルティングサービス 詳細

<対談メンバー紹介>

ブランド戦略コンサルタント・ファシリテーター

朝岡 崇史

元電通ブランドコンサルティング室長・法政大学大学院 客員教授
ブランド戦略、カスタマーエクスペリエンス戦略を専門とする。ディライト デザイン CEO。

1985年、株式会社電通入社。電通ではブランドコンサルティングを行うコンサルティング室長、電通デジタル エグゼクティブ・コンサルティング・ディレクターを歴任。

現在は法政大学 大学院 客員教授(2021年〜)、日本マーケティング協会マーケティングマスターコース・マイスター(2011年〜)などを務めている。

主な著書に『IoT時代のエクスペリエンス・デザイン』(2016年 ファーストプレス)、『なりわい革新』(2022年 宣伝会議 共著)などがある。

ブランドクリエイティブディレクター

岸仲 真

ブランド開発からブランドプロモーションまでトータルに行うクリエイティブディレクター。

銀座の地域活性化プロモーションや地域創生ブランド開発に携わる。

GINZA CREATIVOのエグゼクティブクリエイティブディレクターとして、

共創パートナーの朝岡氏とともに、企業のブランドにおける様々な課題を解決するため「Brand Future Hat」を推進。