銀座ブランドとBrand Future Hat【前編】

花井:GINZA CREATIVOのブランドデザインコンサルタントの花井文袈(みか)です。

GINZA CREATIVOについて


花井:銀座の歴史伝統を大切にし、新しい価値を創造し、未来へ継承することを「サスティナブルクリエイティブ」と考えます。この「サスティナブルクリエイティブ」を銀座でチャレンジするためにGINZA CREATIVOは、誕生しました。

銀座品質を未来へ継承することを意義と考えるクリエイティブブティックです。

その価値、意義に共感いただいた共創クリエイターとして、朝岡 崇史先生に参画いただきました。朝岡先生は、ブランド戦略、カスタマーエクスペリエンス戦略をご専門とするコンサルタントです。また同時に、法政大学大学院の経営学研究科で、客員教授としてマーケティングの教鞭も取られています。

先生、よろしくお願いします。

朝岡先生(以下敬称略)よろしくお願いします。

花井:まずはじめに、銀座について少しお話します。

GINZA CREATIVO ブランドコンサルティングチーム(写真左:朝岡崇史、右:花井文袈)

銀座の歴史について


花井:GINZA CREATIVOの母体の新東通信は、銀座に拠点を構えて40年ほどになりました。10年前には、銀座の街ぐるみグルメイベントの「銀座街バル」をスタートしました。それと、国内最大級のファッションとデザインの祭典「東京クリエイティブサロン銀座エリア」も仕掛けてきました。銀座をニューヨーク、パリ、ミラノと同じくファッションとデザインの都市にすることを目指しています。

私は5年ほどニューヨークで暮らしていたことがあるんですけれども、銀座と共通する点を感じています。大手ディベロッパーが開発した街ではなくて、一つ一つのお店や個人のクリエイティブネスが集結して、新しいものを常に受け入れながら大きく発展してきた点です。タイムズスクエアと中央通りのようなホコ天に見られる国際色なんかも銀座と同じですね。銀座に、より強く感じるのは、歴史や伝統、「守っていこう」「作っていこう」っていう言う街一丸となった意志力。銀座憲章や銀座ルールなどがしっかり作り込まれているようなところから感じています。

銀座のブランドについて


朝岡:銀座は、顧客体験の宝庫ですよね。

日本で暮らす老若男女、インバウンドを含めて、多様なペルソナが活躍する舞台です。

ショッピング、レストラン、映画館、歌舞伎座や宝塚に代表される観劇スポットや画廊のようなアートスペース、高級クラブに象徴される夜の社交場などなど、他の街の追随を許さない洗練され、魅力的なタッチポイントが多様にあるんですよね。資生堂のように、銀座から100年を超える伝統や美意識を積み上げてきた企業の存在もありますよね。

多種多様なカスタマージャーニーがそこにはあって、必然的に流行や文化の発信地として注目を集めてきました。

ただ、多種多様なカスタマージャーニーといっても銀座のカスタマージャーニーを貫く顧客体験の共通テーマ(中核価値)は「アップグレード」であると思います。(人々をアップグレードさせてくれる街です)これはどの時代も変わらない。

花井:確かに銀座で買い物をしていると、他で買い物をする時よりも自分が引き上がった気分になります。アップグレードですね。

朝岡:商業的に賑わった感じを意味する時に、「◯◯銀座」って比喩的に使われることがあるかと思いますが、銀座は単に一過性の文化や流行の発信地ではないんですよね。もっと歴史的な深みのある街。江戸時代の初期に、商業経済の根幹となる銀貨を作る組織が置かれたことが街のルーツにあるんです。「格式がある街」っていうのが基盤にあって、明治維新以降に西欧文化が入ってきて多様なカスタマージャーニーが生まれる中でも、常に人々に期待や想像を超える驚きや発見を提供してきました。銀座の「人々をアップグレードさせてくれる街」というような形で、中核的な体験価値というのは、ずっと変わらず踏襲されて来ている、銀座の核の部分ではないかなと思います。

GINZA CREATIVOが持つ、CXデザインフレームワーク(Brand Future Hat)について


花井:本当にそうですね。銀座のことを考えると、今後さらに必要になってくるのは、住とか緑豊かな自然環境とか共生や循環といったところではないかなと感じるんですね。マンハッタンやブルックリンでは、住んでいたので感じるところですけれど、夏になると周りに住んでいるファミリーがパークに集まってきて、野外コンサートや映画祭を楽しんでいるのが良い感じでした。暗くなると蛍がいっぱい出てきて、緑が豊かで、昼前や週末には芝の上でゴロゴロしながらランチを食べる姿もあって、豊かな住環境を醸し出していました。銀座も訪日外国人が増えて国際性が増していますけれども、「人種のサラダボウル」と呼ばれていたニューヨークを見ると、これからますますの伸びしろがあって期待していけるところかもしれませんね。

朝岡先生も、既存の銀座の魅力に「クリエイティブ」や「多様性」という魅力が上書きされることでさらに魅力を増す、とおっしゃっていたのが印象的でした。

朝岡:そうですね。「人々をアップグレードさせてくれる街」という、中核的な体験価値を基盤に、銀座がさらに魅力的な街へと進化するのは、むしろこれからなんじゃないでしょうかね。

ニューヨークの話が出たので、私の方は、大好きな旅行先であるスペインの話をしましょう。有名なコルドバのメスキータやグラナダのアルハンブラ宮殿を見ると、スペイン文化には800年に及ぶイスラム教の文化が基盤にある事が分かるんですよね。15世紀末にレコンキスタ(国土回復運動)でキリスト教国家がイベリア半島をイスラム教徒から奪い返すという動きがあった時も、スペイン人はイスラム教徒が作ったものを否定して壊すのではなくて、そこにキリスト教文化を上書きしてモディファイをする、例えばイスラム教の寺院の建築物の構造はそのままにして、それにキリスト教の要素を加えていくというやり方をしたわけですね。

花井:私もスペインの事業に関わっていますけれども、SNSなどで発信していると、詳しいユーザ様から「その時代はイスラムではありませんか。」とご指摘が入ったりして、スペインってイスラム文化から大きく影響を受けているんだなと感じていたところです。

朝岡:そうなんですよね。やっぱりフランスとかイタリアに行っても同じキリスト教でもスペインとは全く違う。スペインが独自性の高い文化を作りあげていることに気がつきます。スペインの話でいうと、「共創」を通じた文化の上書きとその結果起こる「化学反応」、これが銀座と重なるところです。
 「人々をアップグレードさせてくれる街」という中核の価値はずらさない。でも、和の伝統文化をうまく残しながら、芸術やアートの部分を強化していくということが重要じゃないかと思います。
さらに最近は、お花見などでインバウンドの方々が多いですよね。

花井:今日も海外からいらしたかたがたが、たくさん銀座を歩いていましたね。

朝岡:インバウンド旅行者によってもたらされる文化の多様性に触発されることで、ユニークな化学反応が起きて、今までにない新たなカスタマージャーニーが追加されていく、そういうことも考えられますね。それから、社会課題の解決につながるような視点を入れることで、既存のカスタマージャーニーが意味深くなったりする。こういった効果が期待できるのではないでしょうか。

そこで重要なのが「共創」するプレイヤー同士を結びつけて、化学反応を促進する触媒(カタリスト)の役割でしょうね。GINZA CREATIVOの活動は実験とプロトタイプの場であるわけですけれども、私たちが銀座に関わるユニークなプレイヤー同士をキャスティングして、化学反応を促進するような働きをしていくといいのではないかと思います。

新東通信は1980年代からスペイン・日本の文化交流やスペインの商材の日本におけるプロモーションを行なってきた実績がおありですね。例えば4月23日に親しい人に花と本を贈る「サンジョルディの日」などはその典型だと思っています。GINZA CREATIVOは銀座に本社を構えるだけじゃなく、異文化交流に造詣の深い新東通信だからこそできるプロジェクトではないでしょうか。

花井:新東の強み、スペイン事業と絡めてくださって、ありがとうございます!

私も先ほどお話しした通り、スペインの企業様と絡んで仕事をしていまして、日本での銀座や日本橋の有名な飲食店様や大使館とコラボしたブランドプロモーションのお手伝いをしたりもしています。

朝岡先生が、銀座が顧客に提供する「カスタマーサクセス*」が「アップグレード」であり、過去から現在まで踏襲されてきたっていうのが非常に印象的ですね。スペイン事業と銀座のコラボもまさに双方のアップグレードがあるのかなというところで、私も意識して関わっています。
GINZA CREATIVOがブランドCXをお手伝いする時に使っているフレームワークがありますよね。「Brand Future Hat」。朝岡先生もいつも関わっていただいているところですが、この枠組に銀座ブランドを当てはめてみると、未来の姿TO BEってどうなると思いますか?

*カスタマーサクセス:顧客が自社の製品やサービスを使うことで、満足し、成功に至ることを支援する上で核となるビジネス方法や考え方。

朝岡:現在は製品やサービスの同質化*や成熟化*が進んでいます。そのような日本の市場の状況で、ブランドを差別化するにはどうしたらいいかということなんですけれども、”機能価値”や”イメージ価値”ではなくて、「体験価値」にシフトすることです。中でも経験価値マーケティングの第一人者、バーンド・H・シュミットが提唱する5つの体験価値のうちのひとつである創造的・知的価値「THINK」の影響力が大きいと言われています。

*同質化:製品やサービスの差が分かりづらくなること。
*成熟化:新規のお客様がいなくなる状況。
*THINK:お客様が知的・創造的領域で感じる経験価値のこと。

*ビジョンは銀座通連合会様及び銀座デザイン協議会様を参照させていただきました。

花井:ニューヨークで開催された旅行博で、体験を求める海外の方には、これまで他国の体験型ブースに比べて、日本の「見せる」観光はちょっと弱かったねと言われていました。 今回は元力士を呼んだ相撲の演出など体験を意識した出展をしたという情報を見たところでした。展示するにしても、参加する、体験、を埋め込んでいかなければいけないというのは感じるところですよね。

朝岡:おっしゃる通りですね。「THINK」によってお客様は感動体験を通じてワクワク感を経験するだけでなく、ストーリーテリングやナラティブのような形で、自分なりの文脈を作って他人への推奨を行うようになります。これは製品やサービスの使用体験だけでなくて、銀座という街での体験も同じではないでしょうかね。お客様のおすすめを新たな銀座ファンを作る原動力にするには、お客様が銀座について「自分語りをするストーリーづくり」が重要なんですよね。

そして顧客が語る銀座体験のストーリーが魅力的であるためには、どうしたらいいか? フレームワークで言うところのWHY(銀座の社会的な価値や存在理由は何か?), HOW(実験とプロトタイプの結果、生み出される新たな企てや先端的な兆し), さらにWHAT(社会実装される新たなファクト、社会課題解決にも貢献できる潮流)。こういったものが整理されて、この順で語られているというのがとても重要になります。

花井:まさにGinza Brand Future Hatで語られるところの、Why、How、Whatですね!

朝岡:はい、いわゆるゴールデンサークル理論*として知られている考え方がベースにありますよね。
繰り返しになりますが、顧客が自分の体験の中に溶け込ませて銀座体験のストーリーを語ることで影響力や波及力が生まれて、他人に響く話になるわけです。したがって銀座の情報を発信する側でもこのフレームを意識してWHY→HOW→WHATの順でロジックを構築することがコミュニケーション戦略的に重要なんですね。

*ゴールデンサークル理論:同心円の中心であるWHYから→HOW→WHATの順で整理し、伝えることで、聞く相手から共感を得られるという理論。中核となる企業の信念、意義などが伝わりやすくなります。

花井:これをまさにワークショップの中で、社員自らがこの順番で考えていく、自社のストーリーを組み立てていくというところですね。

朝岡:間違えてはいけないのは、世の中には往々にしてWhatから入ってしまう人が多いですね。企業も同じです。例えばAppleは”Think different”、ひとと違う発想をすることが自分たちにとって重要だとWhyがしっかりしていて、そのために使いやすいマシンが必要であり、直感的に操作できるUX/UIとか、シンプルで洗練されたデザインというHowがあり、最終的にはiPadなど具体的な製品がある。決して製品から入っていない。

花井:Whyから始めて、企業の核になる部分から考えていこうというところが大事ですよね。

次回、後編をお楽しみに
⇨対談(後編)【ブランドCXの潮流。成功するカスタマーエクスペリエンス戦略とは?】

<対談メンバー紹介>

ブランド戦略コンサルタント
朝岡 崇史

元電通ブランドコンサルティング室長・法政大学大学院 客員教授
ブランド戦略、カスタマーエクスペリエンス戦略を専門とする。ディライト デザイン CEO。
1985年、株式会社電通入社。電通ではブランドコンサルティングを行うコンサルティング室長、電通デジタル エグゼクティブ・コンサルティング・ディレクターを歴任。

現在は法政大学 大学院 客員教授(2021年〜)などを務めている。
主な著書に『なりわい革新』(2022年 宣伝会議 共著)などがある。

ブランドデザインコンサルタント
花井 文袈

カスタマーエクスペリエンス戦略およびEコマース戦略を専門とするコンサルタント。
WEB業界でのマーケティング歴25年。経営学修士。

楽天株式会社でのリサーチャー、JTB本社Web部門での戦略マーケティング、JTB総合研究所でのコンサルタントを経て現職。5年ほど米国に在住していた国際派。
GINZA CREATIVOブランドデザインコンサルタントとして活躍。