小杉 幸一 × 小野 彰彦 対談

小杉 幸一 × 小野 彰彦 対談

1:対談メンバー紹介


<共創クリエイター>

アートディレクター/クリエイティブディレクター/グラフィックデザイナー

小杉 幸一

武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。

博報堂を経て、2019年「onehappy」を設立。 

「コミュニケーション人格」デザインでその企業や商品やサービスのキャラクターを明快にし、クリエイティブディレクション、アートディレクションを行う。東京ADC会員、JAGDA会員、JIDF会員、多摩美術大学統合デザイン学科非常勤講師。岡崎市市政アドバイザー。

onehappy:https://one-1-happy.com/

GINZA CREATIVOクリエイティブディレクター

小野 彰彦

東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。

制作会社や広告代理店を経て、2022年新東通信入社。

デザイナー、アートディレクターを18年。ビジュアルを起点とするクリエイティブディレクションを得意とする。

CI、VI、企画開発、アートディレクション、パッケージ開発、トータルブランディングなどを行う。

近年はWebディレクションに力を入れている。省庁や地域創生プロジェクトに数多く参加。

2: GINZA CREATIVOについて


小野:GINZA CREATIVOクリエイティブディレクターの小野彰彦です。

はじめにGINZA CREATIVOについてお話しします。GINZA CREATIVOは、銀座の歴史・伝統を再発見・再解釈し、新しい価値を創造して未来へ継承するサスティナブルクリエイティブを銀座でチャレンジするために発足しました。

私たちは、その価値を銀座品質と定義していて、未来へ継承したいと考えております。

価値、意義に共感いただき、GINZA CREATIVOに共創クリエイターとして参画いただきました、アートディレクター・クリエイティブディレクターの小杉幸一さんと、本日お話ししたいと思います。よろしくお願いします。

小杉さん:よろしくお願いします。

3: 銀座について、銀座の広告・デザインについて


小野:はじめに、銀座について少しお話しします。

銀座は、他の街とは異なり特別な部分を持っています。その理由の一つに銀座憲章や銀座フィルターというものがあり、これらは銀座らしい価値観や基準を示しているものです。建築協定など一般的なガイドラインとは異なり、「銀座らしさ」を基準としています。また、銀座デザインルールという特別な冊子も発行されており、銀座にとって重要な役割を果たしています。

銀座は、「〇〇初」で有名な場所でもあります。歩行者天国(ホコ天)が最初に行われ、日本初のマクドナルドも銀座に出店
されました。他にも、銀座には歴史と伝統の象徴、歌舞伎座があります。一方で、歌舞伎座も新しいものを取り入れていこうと「初音ミク」とのコラボを実現するなど、伝統と革新を再構築しています。

小野:小杉さんは、銀座についてどのような印象をお持ちですか?

小杉さん:私の場合はグラフィックデザインに惹かれてデザイナーになったのですが、デザイン、広告に関することが実は銀座発信だったということが多くありました。その中でも学生時代に一番刺激を受けたのが、亀倉雄策さんがつくられた『クリエイション』というデザイン誌でした。

他にも銀座グラフィックギャラリーなど展示や、飲食、カルチャーなど、さまざまな銀座の「今」を吸収するという姿勢が銀座にはあります。また、造形としての美しさはもちろん、その時代ごとの美意識にアップデートできるようなクリエイターが多く関わっているのも銀座のイメージです。美意識は造形の意味性が強いですが、それだけではなく、人としての豊かさやしなやかさ、その先にある未来がどうしたら良くなるかなど、時代ごとで美意識を更新することができる街というのが私の銀座の印象です。

小野:私の場合、銀座のはじまりは資生堂のショーウィンドウです。大学時代は伊藤隆道先生の研究室に在籍しており、伊藤先生が資生堂のショーウィンドウのディスプレイに関わっておられたので、そこから興味を持ち銀座の広告、デザインに触れるようになりました。

重要なデザインの展覧会や大事な広告を掲載する時には銀座で行われることが多く、頻繁に足を運んでいました。少し前に話題になったヤフーの屋外広告「ちょうどこの高さ。」は、とても印象に残っています。重要なデザインの展覧会や、大切な広告掲載が行われるというのが私の銀座の印象です。

4: GINZA CREATIVOのロゴについて


銀座クリエイティボロゴ

小野:今回、GINZA CREATIVOを立ち上げるにあたって、小杉さんにロゴ制作を依頼しました。

銀座を代表するメーカーである資生堂の広告制作を経験されており、第一線で活躍されている小杉さんと共創したくお声がけさせていただきました。 GINZA CREATIVOに参画するにあたって、制作する過程や依頼を受けた際に考えたことを、率直にお答えいただければと思います。

小杉さん:さきほど冒頭でも話をしたように、私は銀座にずっと美意識という観点でお世話になっている感じです(笑)。グラフィックデザインカルチャーから入り、銀座の街並みやそこにいる人だったり、今の時代だとオーセンティックと言われるようなレトロな感じだったり、時空を超えてきたような多面的な魅力に触れて私自身が育ててもらったので、恩返しが少しでもできるといいなと思っています。みんなの中の銀座のイメージを顕在化させるのではなく、銀座をどういう風に今の世の中の人たちに、より魅力的に翻訳できるか、ビジョンを生み出せるか。というところで「何かお手伝いしたい。」と思い関わらせてもらうことを決めました。

小野:GINZA CREATIVOのロゴに込めた意図や思いのお話を伺えればと思います。

小杉さん:私がデザインさせていただく際に、銀座という街から自分がそうだったように、「いい未来に連れて行ってくれる、誘ってくれる、導いてくれる」というようなニュアンスが感じられるようなものにしたいと思いました。

小野:小杉さんからロゴをいただいた時、すばらしいロゴのデザインだと感銘を受けました。そのロゴのデザインができるまでの意図や思いを、詳しく小杉さんの口から直接聞けてよかったです。

小杉さん:ありがたいです。今後はロゴやコミュニケーションシステムは、その場で終わりではなくて自分ごとにして使っていくことが重要だと思います。しっかりとシステムとして応用し広げていくことで、あのマークが起点となり世の中の知らない人に「あのマーク見たよ!」と広がってほしいなと思います。これまでの銀座の価値があるからこそ、見たことがない未来へディレクションされていくプロセスはダイナミックですよね。マークというより「姿勢」なんだと思います。

小野:確かに。これまでの銀座の価値があるからこそ、マークの存在が「姿勢」を表すというのは素晴らしいと思います。

小杉さん:ありがとうございます!

5: サスティナブルデザインについて


小野:最近、サスティナブルデザインやSDGsがよく話題になっています。SDGsの第12目標にクリエイターにとって重要なワードがあります。「つくる責任」と「つかう責任」です。デザイン、広告、デジタルも消費されるものなので、「つくる責任」「つかう責任」を小杉さんはどのように考えていらっしゃいますか?

小杉さん:私の場合は、「つかう責任」が大切だと思っています。デザイナーは「つくる」のですが、やはり普段いろいろ使うことで、使う側の意識がないと絶対つくれないです。他人より知ること、素材を知る、行動を知る、過去を知る、地球を知るなどというように、まずは知りながら、そして自分のフィルターを通しながら、知った後に「自分だったらどうつくるか」を意識して考えます。

サスティナブルなデザインをつくるということを意識するのではなくて、サスティナブルなことを無意識で考えなければいけないと思います。より自分ごとになるからこそ新しい提案ができると思っています。

6: デジタルメディアについて


小野:銀座もそうですが、いろいろな案件かかわっている中で、デジタル表現やデジタルメディアを活用した施策を求められることがあります。最近ではAIを活用した施策も話題になっています。アートディレクターとして第一線で活躍されている小杉さんはAIについてどのように思われていますか? 

小杉さん:AIについては、ポジティブにもネガティブにも捉え方しだいで、まだ「考えられる時代」だと思っています。私は常にポジティブシンキングなので、次に進めるツールとしてAI はポジティブに捉えています。人間が発明して道具を手に入れた時から、人間のカルチャーがどんどん広がったということもあるので、敵対じゃなくて、共創というか、一緒に何ができるか、AIと一緒に付き合えるアイデアを考えられるのが人間の進化なんだと思います。

小野:小杉さんは物怖じせず、AIであっても、簡単に使いこなしてしまうような雰囲気を感じます。

GINZA CREATIVOでも、AIを使用するような案件があれば、面白いディレクションをして頂けると思います。

7:GINZA CREATIVOのコンテンツについて


小野:GINZA CREATIVOのこれまでの事例の中に「銀座街バル」があります。銀座のお店は少し敷居が高いイメージがあるので、それを一定期間若い人たちが入りやすいように、リーズナブルに設定し、チケットを配布することにより、銀座のコアな店を楽しんでもらう企画です。もし小杉さんが「銀座街バル」をディレクションするとしたらどのようにされますか?

小杉さん:誰が発信するかが大事ですよね。今までの銀座を知っている人、知らない人に、新しい角度で魅力を発信していくことが大切なんだと思います。さまざまな人のアンテナに、銀座街バルを届けるような。それこそ共創して、「銀座街バル」プラットフォームの魅力の「解像度」を上げていくようなイメージです。

小野:その考え方は面白いですね。

小杉さん:ちょっと前に話題になった「友達がやってるカフェ/バー(店名)」も一つの事例です。「友達がやってるカフェ/バー(店名)」の特徴はターゲットを絞った点ですよね。ターゲットの解像度を上げるほど、企画もアイデアも明快になってくる、そういうコンセプトを明快にする、ターゲットを明快にすることもすごく重要だと思います。

銀座は「世代を超えた」とよく言われています。もしかしたら、ターゲットを人に絞らず、どこに焦点を当てるか。時間帯なのか、エリアなのか、サービスなのか、その解像度を上げることが、銀座だけの「感動体験」、「意識体験」として、新しい価値をつくれるんだと思いました。

小野:GINZA CREATIVOでは、銀座の防災について「クリエイティブな視点から考えていこう」という話があります。
銀座は、それぞれのビルや施設ごとにはいろいろな対策が行なわれているのですが、地域として、街全体としてどのように対策を進めていく方がいいかという話は現在も行われています。銀座に限らず、防災ついて小杉さんはどのようにお考えでしょうか?

小杉さん:私の場合は「防災」という言葉を変えてしまうくらいのワードワークから入ってもいいかなと思います。

小野:ワードワークからですか、確かに防災というと、少し身構えてしまう感じはありますね。

小杉さん:以前、渋谷の「プロジェクト72」という防災プロジェクトに関わらせていただきました。渋谷は代々木公園が避難場所です。だからこそ、その場所で避難訓練をする。本質的なアイデアです。実際に公園に集まった時に、「何ができて、何ができないか」を意識しなくてはいけないので、やはり「場」というリアルな部分があるから、より自分ごと化することに繋がった体験でした。

そのプロジェクトは、人命救助のタイムリミット72時間というデータから、擬似的に一晩そこに泊まるという避難訓練なのですが、本来は代々木公園の宿泊は禁止です。キャンプをしてはいけないのですが、プロジェクトにすることで、いくつかのハードルを超えていけました。体験することで自分ごと化し、「できる、できない」の話から、「しなくてはいけない」という意識をいかに強く持てるようにしていくかが大切だと思いました。そうした考える時間を共有する「プロジェクト」なのです。

8:これからについて


小野:最後に小杉さんの今後の活動について。また、GINZA CREATIVOで「こういうことをやりたい」などありましたらお聞かせください。

小杉さん:私は、もともと広告代理店に勤めていたのですが、代理店を辞めて独立するきっかけになったのは「自分のポジションをきめない」という理由からでした。私のアートディレクションやクリエイティブの力を、どこでも発揮できて、必要なことであれば、デザインの力でなんでもしたい。であれば会社ではなく、独立した方がフットワーク軽くいけるのではないかと考えたからです。

今回共創クリエイターとして参画させてもらったのは、本当に僕のクリエイターとしての姿勢そのものを発揮できる場所をつくっていただいたのかなと感じたからです。アートディレクションやクリエイティブで、世の中に銀座を本質的に翻訳できたらなと思っています。

小野:小杉さん、本日は対談ありがとうございました。

小杉さん:ありがとうございました。

まとめ

今回は、共創クリエイターの小杉幸一さんとGINZA CREATIVOクリエイティブディレクターの小野の思いが語られました。

それぞれの経験、価値観を通して銀座を考える場をもうけさせていただきました。銀座について何ができるかを真摯に話し合い続けて、目的を達成するためには多くの壁があると思いますが、ひとつひとつを丁寧に考えることで、銀座に寄り添えるGINZA CREATIVOでありたいと思います。次回のGINZA CREATIVO対談をお楽しみに!