前編では、GINZA CREATIVOのブランド構築フレーム[Brand Future Hat]を使った「銀座」のブランディングについて対談を行いました。
⇨対談銀座のブランドとBrand Future Hatについて(前編)はこちらからご覧になれます。
今回の後編では、ブランドCXの潮流。成功するカスタマーエクスペリエンス戦略について対談を進めます。
GINZA CREATIVO ブランドコンサルティングチーム(写真左:朝岡崇史、右:花井文袈)
近年のブランドCXの潮流について
花井:15年以上前くらいにネットベンチャーから、大企業へ移った時に、現在のその企業は私が働いていた頃とはだいぶ違っていますが、当時は入社して社内の事業者目線が強いことで、カスタマーエクスペリエンスがその結果、大きく損なわれてしまうんだなぁということを、リアルに感じたところでした。
ちょうどその時に試みたのが、世界初の統合マーケティングの実証研究です。5社の従業員にアンケートをとって比較したんですけれども、顧客を主語に語るかどうかというのが、カスタマーサクセスひいてはCXに成功しているということが実証できた、実感もできたところでした。企業内に顧客視点がないと、企業の唯一無二、何が強みなのかといったところも見えなくなることが分かりました。
マーケティング領域自体、この10年を振り返っただけでも、顧客主体に移り変わってきているなぁというのを感じてきています。
朝岡:おっしゃる通りだと思います。マーケティングも、より顧客主語、顧客体験を重視したものに変わってきていると思います。まず豊かな顧客体験を創出するためには「顧客への共感」というのが大事な部分なんです。
花井:お客様の身になってみないと共感できないというところですよね。
朝岡:はい。英語で「他人の靴を履く」っていう表現がありますが、そういうことだと思いますね。
花井:GINZA CREATIVOのブランドフレームワーク、Brand Future HatのHatというのも、まさにお客様の身になって(Think)帽子をかぶるという意味もあります。靴に代えて帽子です。最初は場の意味でHutとしていましたが、Hatの方がよりフィット感があるのではないかと。
朝岡:良質な体験とは顧客の気持ちの変化に寄り添って、顧客の期待や創造をはるかに超える感動体験を生み出すことなので、顧客の気持ちに迫らないことには成立しないという風に考えています。
「デザイン思考」の5つのプロセス(共感⇨定義⇨アイデア⇨プロトタイプ⇨テスト)のうち、私は最初の「共感」が最も重要だと思っています。「共感」力をいかに高めるかがカスタマーエクスペリエンス(CX)戦略の根幹というわけです。
ひと昔前までだと企業は事業効率を高め、利益を生み出すために企業主語で製品やサービスを設計することが多かったわけですが、このやり方だと顧客にずっと愛着を持って買い続けられるブランドになることはできません。リピーターを増やすようにはならないですね。ですから、企業主語からお客様主語に180度転換しないと変わりません。
花井:180度変えていくためには、社内から変えていくというところですよね。自社の製品やサービスを買ってくださっているのはどういうかた方々なのか?明らかにすることで向き合っていけますね。
朝岡:はい。そして、社員の方々が自分ごと化して、みなが行動に移すことで、事業の熱量が高まって、結局はお客様接点でその熱量が伝わりますから。誰が対応しても同じような感動体験が生まれるという構図になってくるんですね。
また、デジタルトランスフォーメーション、いわゆるDXが進む最近の新たな傾向として、競争力の高い、新たな体験の創出には一企業単独ではなくて、「共創」が不可欠であると思います。私は2014年から世界最大規模の最先端テックイベントであるCES(毎年1月初旬に米ラスベガスで開催)に通っているんですが、今年の技術的なハイライトは「生成AI」の製品やサービスへの実装でした。今年のCESの基調講演で注目を浴びたシーメンス、ロレアル、ウォルマートは「生成AI」をCXの向上と社会課題の解決を両立させる形で製品やサービスに組み込むことに成功したことをアピールしていました。しかしながら、彼らのような世界的な大企業であっても、導入に当たっては、単独ではできないんですよ。マイクロソフト、オープンAIやAWSなど複数の「その道のプロ」と戦略的なパートナーシップを組んで、「共創」型でプロジェクトを進めることが世界の常識になってきています。
花井:Web2.0の頃には、最先端の企業が各々に新サービスの開発にしのぎを削る世界でしたが、より時間勝負になったところで、専門性を繋ぎあって勝負するようになっていますね。
朝岡:新しいブランドづくり、なりわい作りというのは、実は共創のプラットフォームを作るのと同じ意味になっているのですよね。
印象深かったカスタマーエクスペリエンス戦略(CX)、大切にしていることについて
花井:AIチャットの活用などで、リアルとデジタルの融合が進んでいる中で、企業と生活者との接点が多くなってきましたね。企業姿勢や発信するメッセージの矛盾も見えやすくなってきています。一気通貫のブランドストーリーを提供するためには、従業員側、企業文化的なところから顧客視点になる必要が出ていますね。
先生のCXのご経験の中で、印象深かったコンサルティングや、ワークショップの中で大切にされていることを、改めてお聞きしてみたいです。
朝岡:私がブランド戦略からカスタマーエクスペリエンス戦略のコンサルティングに軸足を移したのが2010年頃でした。当時は製品やサービスの同質化・成熟化が進んでいて、さらにリーマンショックの余波でグローバル化や規制緩和が一気に進んだ時代。それまで政府によって「護送船団方式」のような形で規制によって守られてきたエアライン、携帯電話、銀行・保険などの企業が生き残りのために経営戦略の見直しを迫られていました。
先ほど(対談前編で)申し上げたように、機能価値やイメージ価値ではなかなかブランドの差別化はできない、では何で差別化するかというところが大切です。そこで処方箋として注目されたのがCX価値=カスタマーエクスペリエンス戦略、です。2012年から2016年くらいにかけて、私は企業の経営トップと向き合って、エアラインA社、携帯電話B社、メガバンクC社などの大手企業のカスタマーエクスペリエンス戦略を中長期でお手伝いしました。 手法としては社内で経営トップの直下に組織横断のCXタスクフォースチームを作って、合意形成を図りながら、企業主語から顧客主語に発想を転換して、顧客体験を抜本的に刷新するサービスを創出しました。タスクフォースチームには、営業やマーケティングからだけでなくて、人事や総務や情報システムなど複数の部署も参加していました。
花井:タスクフォースを組んでというのは、以前、私たちがGINZA CREATIVOでやっているのと同じ方式ですね。そこを中心に組織を変えていくやり方ですね。
朝岡:社員の方々が腹落ちしないと、どんなに良い戦略を経営者がつくっても、“笛吹けど踊らず”ということになってしまいます。社員の共感も同時に高める必要があります。
具体的には顧客の共感を高めるためにどうしたかというと、まずはリサーチ、デプスインタビュー調査をしたり、シャドウイングでお客様になりきる。例えば、40代のマネージャーが初めて海外出張に行く20代の顧客になったつもりで出張し、気づきを得るなどですね。ペルソナ設定をし、カスタマージャーニーのマップ化を行ったり。
顧客の行動や気持ちの変化に寄り添いながら、顧客のペインポイント(イライラやがっかり)を抽出し、企業としての課題を定義していきました。課題が明確になれば、顧客の悩みを解決するだけでなく、期待や創造を大きく超える体験価値につながるんですね。サービスやオペレーションはどういうものかが明確になってきます。タスクフォースのメンバーも腹落ちがしやすくなるので、自分たちの部署がそのためにどんな役割を担えるかも明確になります。 まさに組織が一体になっての「オーケストレーション」*と言えますね。
*オーケストレーション:IT用語で、複数の異なる階層に横断的に存在する複雑なプロセス、工程を自動化・調和させることを言います。
ドラッガー曰く「組織はオーケストラ」。
ここまでお話ししてきたようにCXを高めるための活動が、EX=組織文化を刷新するための活動にもなっていました。たとえ良いサービスを作ったとしても、組織文化が変わっていないと再現性が担保されないわけですね。対応する人が変わると、次にチャンスが来た時に同じことができない、これではダメなんです。タスクフォースに参加できなかった社員にもCXを組織文化として浸透させるため、経営トップが強いメッセージを発信するだけでなく、啓発ビデオを使ったCX研修を実施して社員の「熱量」を高めることが大切です。また、人事制度に顧客からの評価を反映するなど、社員が「自分ゴト」化したり「行動」化を促進するような施策を実施してきました。
これからについて
花井:タスクフォースを作るというところで。私も既にお話しした事業会社の中での経験で、EXからCXに繋がっているなぁというのは実感するところです。
戦略マーケターとして、お客様志向の組織への改革を目指す中で、バラバラになりがちな従業員を数珠繋ぎにして一本貫くものが必要だと感じてきました。具体的に何をやったかというと、お客様へのアンケートを取って、それをマーケティングレポートとして全社に共有する、お客様がどういう課題を抱えているのか、カスタマージャーニーマップをつくって共有するなどを中期のマーケティング戦略として取り組んできました。
買ってくださるお客様について、またその課題が見えることで、顧客主語で会話が通じるという効果を感じました。お客様がよりよく満足してくださるための共通課題が見えてくると、「WEBと店舗をくっつけた形の取り次ぎサービスを作ろう。」などタスクフォースチームを作って新たなタスクが達成され、億単位の利益を出す新たなサービスが生まれていきました。EXから改革していくって大事だと実感しています。
先生のお話しを伺っていると、先ほど「共感力」を作っていく過程が大事だとおっしゃっていましたね。我々のBrand Future Hatのフレームワークの天辺は共感力で串刺していると言えるかもしれませんね。
作った商品やサービスの売り方を考えるだけでは売れない時代、心から応援したくなるブランドストーリーと共創づくりというところで、GINZA CREATIVOでブランド構築のお手伝いしていければと思います。
朝岡:今後、GINZA CREATIVOとしては、触媒(カタリスト)として、トライ&エラーのリーンスタート方式*で新しい価値を社会実装し、銀座品質を世界に発信していきたいですね。
*リーンスタート:コストをかけずにプロトタイプで実装実験し、顧客満足を生む製品やサービスを開発していく技法。
花井:最後に視聴者のかたへ向けて、GINZA CREATIVOのブランドコンサルティングサービスについて、ご紹介させてもらいます。
主に朝岡先生と私、花井のコンサルタント2人体制でコンサルティングして参ります。標準的にはトータル24H(6時間×最短4日〜半年程度)の期間をかけて、企業様社内のタスクフォースチームと共にワークショップを行い、カスタマーエクスペリエンスをデザイン、実装するまでをファシリテートします。
より多くの企業様に成功体験を生み出していただきたいですね。
ブランドコンサルティングサービスの内容や金額などは下記「詳細」からご覧ください。
本日は、ありがとうございました。
朝岡:ありがとうございます。